みなさん、こんにちは。横浜市胃腸科のららぽーと横浜クリニックです。
8月を超えただけで、なんだか少し夏が遠ざかった気がします。
とはいえ、まだまだ暑い日もありますから、油断せずに過ごしましょう。

さて、秋が近づいてくると「そろそろ健康診断だなぁ」なんて方もいるのではないでしょうか。
会社の健康診断でよく使われている、胃と大腸の検査といえば、胃のバリウム(胃透視検査)と便潜血検査(検便)ですね。
どちらも「会社の健康診断としては」メリットのある検査ですが、「胃がん、大腸がんの早期発見のため」としては一生胃のバリウムと便潜血検査というわけにはいきません。
今回は、「胃バリウム、便潜血検査だけではどうして不十分なのか」についてお話していきたいと思います。

 

胃バリウムと便潜血検査とは?

胃バリウム検査

正式名称を「上部消化管X線検査」という検査方法で、会社の健康診断に組み込まれていることの多い検査方法です。
発泡剤(炭酸)で胃を膨らませ、バリウム(造影剤)を飲んでから、検査台の上で体の向きを上下左右に回転させながらX線(レントゲン)を連続的に撮影する検査です。
バリウム検査の主な目的は食道、胃、十二指腸の疾患早期発見です。
バリウムが粘膜の表面を滑り落ちていく様子を撮影すると、ポリープ、隆起(りゅうき:盛り上がること)、陥凹(かんおう:へこんだ状態)などの有無を捉えることができます。
ただ、胃バリウム検査はモノクロの影絵を見ているにすぎず、凸凹のないほぼ平坦な病変や、色の違いを認識するとはできません。
ですので、胃バリウム検査で異常が見つかった場合は、粘膜を直接確認するために胃の内視鏡検査を行う必要があります。

便潜血検査

便潜血検査は、便に血液が含まれているかどうかを判断する検査です。便に血液が含まれている=大腸からの出血の可能性(大腸ガンの可能性)がある、ということになります。
便をスティックで採取して提出するだけで済む、体に負担のない簡単な検査であるため、スクリーニング(病気の可能性のある人を選出すること)として広く普及しています。
そのため、健康診断の際に、大腸がん検診として実施されています。
便潜血検査の主な目的は大腸ガンの早期発見です。
便潜血検査では、目に見えないようなごく微量の血液も検出します。
この結果が陽性であった場合には、検出された血液の原因が、大腸がんをはじめとする大腸の疾患でないかを確認するため、大腸内視鏡検査が必要となります。

どちらの検査も、簡単で検査時間自体が短く、沢山の人数をこなすことができるため、たくさんの人が同じ検査を行うような健康診断の場では非常によく使われます。
ですが、胃バリウム検査と便潜血検査だけでは、「一生」を考えたときに健康を守り切ることは難しいと言えます。
それは何故なのでしょうか。

 

胃バリウム検査と便潜血検査では不十分?

胃バリウム検査と便潜血検査を毎年受けていれば、胃ガン・大腸ガンの心配はないかというと、実はそうではありません。
何故なら、胃ガン・大腸ガンを調べるには胃バリウム検査と便潜血検査では精度が足りないのです。

胃バリウム検査

胃バリウム検査は、影絵を見ているだけで「具体的に胃の粘膜がどうなっているのか」を調べることはできません。
それに対し、胃内視鏡検査では胃粘膜を直接観察できるため、「どこがどのような変化をしているのか」(胃炎、胃ポリープ、逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)をはっきりさせることが可能です。
特に早期の胃ガンは、粘膜の変化がわずかな隆起や凹み、周囲の粘膜との色のちがいとしてしか認識できないことが多いのです。ですから、早期がんを見つけるという点においても、内視鏡の方が断然優れています。
また、内視鏡では食道についても胃と同じ様に粘膜を観察できますが、胃バリウム検査では食道はすぐにバリウムが流れてしまうため、小さな変化などの指摘はとても難しいです。

便潜血検査

便潜血検査は、便に血液が含まれているかどうかをチェックすることができますが、あくまでスクリーニング検査のため、これだけで何か診断が出来るような検査ではありません。
それに対し、大腸内視鏡検査は、胃内視鏡検査と同じように直接粘膜を観察することができるため、大腸ガンや大腸ポリープ、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)があるかを、確認することが可能です。
便潜血陽性であったことをきっかけに大腸内視鏡検査を行った人の中で、大腸ポリープが見つかることがあります。
これは「便潜血陽性となった原因がポリープであった」というよりは、「便潜血陽性をきっかけに行った大腸内視鏡検査でたまたまポリープが見つかった」と考えられます。
もちろん、大腸ポリープに便が擦れて出血した可能性もありますが、小さな大腸ポリープではその確率は低いのです。
大腸ガンの芽とも言われている大腸ポリープですら小さいと便潜血検査では見つけることは非常に難しいです。
便潜血陽性で見つかるような大腸ガンは、進行ガンとなっている場合が多く、早期発見という点で便潜血検査は、内視鏡検査に比べて非常に劣ってしまいます。

こうした精度の差から、胃と大腸の健康を守るためには、胃バリウム検査と便潜血検査だけでは不十分だと言えるのです。

 

定期的な内視鏡検査を

いかがでしたか?
もちろん、何も検査をしないよりは、胃バリウム検査と便潜血検査を行うことは良いことです。
ですが、一生のうちに行う検査がこの2つだけでは、胃と大腸の健康を守るためには不十分であると言えます。
医師はわざわざ胃バリウム検査や便潜血検査を選ぶ人が少ないです。というのも、しっかり病気がないかをチェックする、という点では胃バリウム検査や便潜血検査を行うことに意味がないからです。

胃バリウム検査では、引っかかった部分が実際どうなのかをみるために、胃内視鏡検査(胃カメラ)が必要となりますので、専門の医療機関でしっかりとみてもらいましょう。

また、便潜血検査で陽性になった患者さんの中には、「昔から痔があるからきっとそれのせいだ」「検便の時に便秘気味だったから切れてしまったんだろう」と、便潜血が陽性になった理由を自分の中で都合よく解釈してしまう方もいます。
自分の思い込みで安心するのではなく、「大腸内視鏡検査を受けるべき人を選出する検査で引っかかった」と考えを改め、検査を行って大腸の中に何も異常がなければ、そこで初めて痔からの出血だったのかもしれないと安心することができます。

胃バリウム検査と便潜血検査だけに頼るのではなく、どこかで必ず内視鏡検査を定期的に受けるようにして、胃ガン、大腸ガンを撲滅していきましょう。