当院は年間で15,500件の内視鏡検査を行っています。大腸内視鏡検査だけでいえば7,500件となっています。(2015年9月のデータ)

これだけ沢山の検査をしていると、珍しい症例に出会うこともあります。

その中から、今回は「腸管気腫(ちょうかんきしゅ)」という所見についてお話したいと思います。

 

下痢・腹部膨満感の症状で来院された患者さんでしたが、内視鏡検査をしてみると大腸にはこのような隆起した所見が…

内視鏡検査中に画面を見ていた患者さんはこの映像を見て驚き

「ああ、私はきっととんでもない重篤な病気にかかってしまっているのね…」

と、そう思われたようでした。

 

確かに一般の方には少し刺激的な腸内の様子ですが、実はこれ…病気ではないのです。

「腸管気腫症」または「腸管嚢腫様気腫症(ちょうかんのうしゅようきしゅしょう)」といわれる消化管壁内に多数の嚢腫様気腫が認められる「症候群」なのです。

嚢腫様…なんて聞いてもピンと来ない方が多いと思いますが、要するに腸管壁に気体が入った袋状の出来物ができた状態です。

例えば、癌やポリープならば、腫瘍の中に細胞がギッシリで、この細胞が悪い方に変異してしまうと悪性になるわけですが、この「腸管気腫」の場合は中には気体が入っているので悪性も何もありません。

内視鏡検査時に生検かんしでつまむと気体が出てきて無くなってしまう、なんて事もあります。

 

ちなみに、X線所見では中身が気体なだけに見事に真っ白になって見えます。

しかし、一体どうして気体が入り込んでしまうのでしょうか?

原因としては、圧力をもったガスが腸管の粘膜の潰瘍や裂け目などを通って腸管壁内に進入したという説や、薬の副作用説(主にステロイド剤)、細菌説…沢山の説があります。

 

大腸内視鏡検査で発見されることがありますが、この「腸管気腫」は本当に稀で。私の病院でもまだ5例程度しか見つかっていないので、おおよそ1万分の1程度の確率の希少所見と言えるでしょう。

 

まだまだ未知の部分が多い「腸管気腫」症候群ですが、基本的に治療は不要です。濃度酸素療法・高圧酸素療法・漢方や絶食と点滴などで治療することも文献的にはあるようですが、実際には自然治癒してしまうことが殆どです。

 

それよりも、大腸ポリープや癌の早期発見は重要です。大腸癌ができても症状は出ませんので、定期的に大腸内視鏡検査を受けて、大病の芽を摘んでおきたいものですね。